生産技術で新規の設備導入に失敗しない、5つのポイント

生産技術の主な仕事の1つが新規設備の導入、立上げです。

新規のライン立上げや、既存ラインの増産対応、生産拠点の移転対応など、新規設備を導入する機会は多いでしょう。

 

何しろ生産計画はもう1年先まで見込んでいるし、導入遅れによる生産計画の修正は絶対に避けなければなりません。

むろん、新規設備によって品質上の問題が発生するなどもってのほかです。

 

しかし、私が半導体工場で20年間、設備を担当した経験から言えば、設備が問題なしにスムーズに導入できるのはまれです。

よほど完成度の高いリピートの設備ならともかく、新規導入は立上げ途中で問題発生が普通であり、それを前提に準備する必要があります。

 

では、どんな点に配慮して新規設備の導入にあたればいいか、その要点を次の5つにしぼって解説します。

 

新規設備導入を失敗しないための5つのポイント

①導入目的を明確にする

②設備より先にメーカーを選ぶ

③汎用性と拡張性を重視する

④立上げはサンプル品の準備で成否が決まる

⑤継続的に品質と生産性を監視する仕組みをつくる

では1つずつ、詳しく解説します。

 

導入目的・設備仕様を明確にする

何はさておき、この導入目的を明確にする、と言うことが最優先です。

「設備導入を失敗しない」

と言うなら、何が成功で、何が失敗かを明確にする必要があります。

設備を導入すること自体が目的ではなく、必ずその背景としての目的があるはずなのです。

 

その目的を達成するために設備の仕様が決められているはずです。

●対応する品種

●生産能力(MTBF・MTTR含む

●良品歩留まり

●品質指標

こうした仕様が数値化されて明確になっていることが必要です。

この他にもこまごました指標はあるでしょうが、とにかくこの4つは必須です。

「そんなの、当たり前だろ」

あなたはそう思われるかも知れませんね。

しかし、実際には導入途中や導入後になってもめることがけっこうあるのです。

 

導入計画書の中に仕様として明記されているにも関わらず、

「そんなこと聞いていない」

「これが抜けてる」

「それはあくまで暫定指標だ」

「途中で差し替えたのに修正されていない」

などなど、部門や担当者によって受け取り方が異なるという、あってはならないことが起きます。

 

うまくいかない

 

この事態を防ぐには、念には念を入れて事前の根回し、確認、念押しを行うしかありません。

だいたい、要注意部門、要注意担当者は前科があるので把握できるはず。

出来れば避けて通りたいところですが、そんなやっかいな部門、担当者こそこちらから足を運んで念押ししましょう。

 

計画書を回覧するだけ、うわべだけの説明会だけ、これらは危険です。

新規設備の導入で出来る事、出来ない事を明確に理解してもらうプレゼンが必要です。

「今ごろ言われても・・・」

どうかこのフレーズを言わないですむよう、事前準備を進めてください。

 

設備より先にメーカーを選ぶ

設備メーカーがどんな姿勢で設備を開発しているか、製作しているか、それによって導入の成功、失敗は大きく左右されてしまいます。

 

自分が儲けることしか考えないメーカーから設備を買うのは止めましょう。自社の技術や都合を押し付けるメーカーはお引取り願いましょう。

いかにすれば顧客が儲けることが出来るか、それをいっしょに考えて、実行してくれるメーカーを選びましょう。

 

グッド営業

 

それには、顧客起点と言う発想があるかどうか、それで判断することが出来ます。

メーカーが用意する設備のカタログや技術資料、製作仕様書の中にそれを読み取るカギがあります。

 

その設備にどんな新技術が駆使されているか、自社技術の自慢話や苦労話ばかりするメーカーは要注意です。

 

それより、その設備を導入するとどんなメリットがあるのか、もっと分かりやすく言えばどれだけ儲かるのか、それを明確にしてくれるメーカーを選んでください。

どんなに素晴らしい技術でも、顧客が儲からない技術なんて何の役にも立ちません。

 

汎用性と拡張性を重視する

どんな設備でも仕様が決まっています。

その仕様で何種類の製品を生産できるか。それが「汎用性」です。

その仕様を将来どこまで広げることが可能か。それが「拡張性」です。

導入した設備の寿命はこの2つで決まります。

 

高額投資なのに、たった1年や2年でお蔵入りして寿命が尽きてしまっては元も子もありません。

新しい設備を導入するときには、必ず「汎用性」と「拡張性」に配慮してください。

 

例えば、新規導入した設備で3年先に何を、どう生産しているか、それは確定していないでしょう。

なので、「分からない」と言うことを前提にした仕様にするのです。

他の会社が気になる

 

例えば主要部分が製品の種類によってチェンジキット化されている、追加や改造に対応できる予備のスペースが確保されているなどの配慮です。

むろん、どこまで汎用性を持たせるか、拡張性を持たせるか、これも事前の計画書に盛り込むべき項目です。

 

よほどの事情がない限り、汎用性や拡張性のない専用機は避けるべきです。例え、導入時期にそんな声が強くても、可能な限り配慮してください。

 

私の苦い経験ですが、過去に数千万円の投資を行って、製品仕様が変わったために全く使えなくなってしまった設備があります。

 

満足に生産に寄与できたのはたったの半年でした。誰にも半年後に製品仕様が大きく変わることを予測することは出来なかったのです。

 

失敗してもめげない

 

そしてその仕様変更に対応しようとすれば、設備本体、心臓部から作り変える必要があり、新規製作と同じくらいのコスト見積となりました。

設備導入の責任者としては、要求仕様は満たして導入したと言えますが、実際には失敗です。

 

立上げはサンプル品の準備で成否が決まる

設備導入の立上げはサンプル評価から始まります。そして導入の締めくくりもサンプルを使っての評価で終わります。

いかにして必要な種類と量のサンプルを確保するか。ここに導入成否のカギがあると言っても過言ではありません。

 

例えば、検査系の設備なら良品サンプル、不良品サンプルを十分な種類と量、用意する必要があります。

なかなか立上げ側で要求する種類と量を用意してもらえることはありません。特に良品サンプルは難しいです。

 

しかし、不良品の評価だけで立ち上げると、実際の生産が始まってからオーバーキルが多発し、良品歩留まりが予定に達しないという事態が発生します。

 

サンプル品

 

製造系の設備だと、サンプル製造による条件出しに必要な種類と量の材料を準備する必要があります。

これもまた要求通りに揃えてもらうことは難しく、後になって最初から条件出しをやり直したりするハメになります。

 

特にサンプルや材料を自社で用意できず、客先から支給してもらうような場合は不足が発生しがちです。

サンプルや材料不足によって生じるリスクがどんなものか、明確に伝えて先方にもリスク負担してもらいましょう。

 

継続的に品質と生産性を監視する仕組みをつくる

設備を導入した時点で、設備メーカーとしては終りかも知れません。しかし、導入部署としては、それはスタートでしかありません。

いくら立ち上げ時に素晴らしい性能を発揮出来ても、量産を継続する中では必ず様々な問題が発生してきます。

 

そして一番恐ろしいのは、色んな問題が発生することではありません。その問題に気が付かないことです。

これ以上に怖いことはありません。

知らないうちに不良品が流出していた。

知らないうちに良品歩留まりが低下していた。

こんな事態になっては大変です。

驚く男性

 

この事態を防ぐには、継続的に品質管理を行う仕組み、歩留まりや生産性を管理する仕組みを作ることです。

人的要因で気付く、気付かないというレベルで済ませるのは一番危険なやり方です。

 

異常歩留まりの設定や、ロットごとの抜き取り検査など、現場に合わせた仕組みが必要になります。

そして導入責任者としては、問題は必ず発生する前提で常に疑り深く注視することが大事です。

 

まとめ「絶対に失敗しない方法」

では、最後にもうひとつ。絶対に設備導入を失敗しない方法があります。

それは、

「成功する設備しか、導入しない」

これに尽きます。

理屈で無理なものは、精神論ではカバー出来ません。生まれの悪さは育ちでカバーできないのです。

 

どんなに優秀な導入メンバー、立上げメンバーを揃えても、りっぱな環境を用意しても、設備の出来が悪ければどうにもなりません。

自社で内作した設備でも外部メーカーから購入した設備でも同じです。

 

考え続けるエンジニア

 

新規設備とは、必ず問題が発生するものだという認識を持ってください。

そして問題が発生したときに、どんなリカバリーが可能か、そこまで導入前に検討してください。設備にリスク対策を盛り込んでください。

限られた予算、納期の中でどこまでリスク対策を盛り込めるか、それも設備導入担当の仕事です。