今回は生産技術と設備保全が協力して行う、保全コストの削減についてお話します。
「コストダウンなんて自分には関係ない。」
そう思っているあなた。
保全環境の整備や作業の改善によるコストダウンは、あなたの仕事を楽にしてくれます。決してあなたに無関係な話ではありません。
手抜きのコストダウンではない、省力化、合理化によるコストダウンこそ、エンジニアの腕の見せどころです。
私の20年間の半導体工場におけるコストダウン体験もまじえてお話したいと思います。
品質に敏感なエンジニアほど、コストにも敏感です。
保全品質の向上と保全コストの削減は相反するテーマではないことを分かって欲しいと思います。
設備保全のコストを削減する
私は長年半導体工場で生産技術や設備保全の責任者をやっていました。
私の最も重要な任務は言うまでもなく、日々の生産が計画通りに達成できることです。
その為に新規設備を導入したり、既存ラインの設備を正常な状態に保つことが私の任務でした。
計画通りの生産量、歩留まりをクリアしていれば製造や生産計画からクレームがつくことはありません。
しかし、工場長や担当役員は「設備保全のコストダウン」と言う課題を私に与えました。
単に設備が安定稼働してればいいだけでなく、その為のコストを削減しろと言う訳です。
これは私にとって正直面倒な話でした。私の本音を言えばコストより安定稼働がずっと優先であり、その仕事をじゃまするような課題は迷惑以外の何物でもありませんでした。
でも、面倒だからと言って手抜きの合理化は品質低下、設備トラブルの原因となります。結局は高い代償を払うことになるので絶対にやれません。
では、手抜きの合理化ではなく、品質を落とさないコストダウンとはいったいどんな方法でしょうか。
私が半導体工場の設備保全で行っていたコストダウンを紹介したいと思います。
設備保全のコストダウン5つの方法
私たちの工場では次のようなコストダウンの取り組みを行っていました。
1.事後保全を減らす。その為予防保全、予知保全、改良保全を取り入れる。
2.治具化・マニュアル化による定期点検の時間短縮(工数削減)
3.保守部品の余剰在庫削減
4.保全要員の多能工化による人員削減
5.オペレーターの自主保全による保全工数削減
これらのテーマを生産技術、設備保全の協力により実現していきました。では1つずつ詳しく説明していきましょう。
1.事後保全を減らす。予防保全、予知保全、改良保全を取り入れる
いきなり製造ラインの設備が予期せぬ故障で停止すると、保全現場は非常事態となります。コストなど構っておられず、生産復帰が最優先になります。
人手を投入して残業、休出も止む無し状態となります。また、部品交換が必要であれば高くてもすぐ手に入る部品を優先して購入することになります。
見積を取ったり価格交渉をしている余裕などありません。
こうして設備の生産復帰を最優先するために、高いコストをかけるハメになります。
このような事態を防ぐために行うのが予防保全であり、予知保全であり、改良保全です。
予防保全の一番分かり易い例は定期点検です。
計画的に月次点検、3ヶ月点検、半年点検、1年点検など、必要に応じて定期点検を行い故障が発生する前にメンテナンスを行います。
予知保全、改良保全とは過去の保全データから、予め今後起こるであろう設備トラブルを予想し未然に防ぐことです。
例えばある部品が何度も変形や破損を繰り返すようなら、その部品の交換方法を考えたり在庫を考えるより、そもそも変形や破損をしないように改善することが正解です。
生産技術や設備保全のエンジニアはこの視点を持つことが大事で、単に保全が出来ればいいと言う訳ではありません。
その為には故障が発生した時に、なぜその故障が発生したのか、原因をしっかり追究する習慣を身に着けることが重要です。
また、ある程度設備設計の知識がないと原因追及や対策が出来ません。特に生産技術の仕事では機械要素、機械製図の知識とスキルが必要です。
2.治具化・マニュアル化による定期点検の時間短縮(工数削減)
定期点検をさぼって手抜きの合理化を行うと後で高いツケを払うハメになります。必要な点検の手抜きは許されません。
しかし、定期点検の作業を見直して工数削減することは大いにやるべきです。
点検がやりにくい作業については治具化したり、マニュアル化して誰がやっても短時間で点検品質を落とさず時短が出来るようにする訳です。
あるいはここでも設備の改善によって点検項目を減らしたり、月次点検を1年点検に変更したりといった取り組みも重要です。
例えば部品の設計変更によって耐摩耗性を向上させたり、購入部品を長寿命型に仕様変更したりすることで点検工数の削減が可能になります。
こうした取り組みは主に設備保全が中心になって行います。ただ、治具化については生産技術の協力が必要な場合もあります。
3.保守部品の余剰在庫削減
保守部品の在庫管理や発注点管理がしっかり出来ていないと、何となく不安で不要な余剰在庫を持つことになります。
保全に必要な部品を必要な数量だけ在庫する、これを徹底することでコストダウンが可能になります。
言わば当たり前のことですが、この当たり前のことが出来なくて余分なコストをかけることが多いのです。
私達の工場では簡単な在庫管理システムを自前で構築して運用していました。在庫状況の見える化を実現したのです。
どの部品が何個、どこに保管されているのかパソコンの画面上で簡単に確認することが出来ます。またどのタイミングで追加発注をすればいいのかも分かります。
「何となく心配だから余分に購入しておけ。」といったどんぶり勘定がなくなります。
また保全に使用するネジや潤滑油、エアパーツなどを標準化して在庫を減らす取り組みも行っていました。
この取り組みは場合によっては設備の設計的な見直し、改善を必要とします。この点で生産技術が協力することもありました。
4.保全要員の多能工化による人員削減
保全対象となる設備の種類が多いと、どうしても保全も分業化されます。それは致し方ないのですが、結果として余剰人員を抱えることもあります。
極端な例として、もしも保全担当者がそれぞれ1種類の設備の保全しか担当出来なかったら、それこそ大勢の人数が必要になってしまいます。
しかも、設備の稼働状況はそれぞれ異なるし、トラブル発生のタイミングも異なるので、大忙しの保全担当者と、完全にヒマな担当者が出てきます。
これは全く無駄な人員割り付けでコスト高となります。
では逆に一人の保全担当者が複数の設備を保全出来るスキルを持っていたら。これは割り付けが楽です。
ある設備で修理や点検で人手が不足したら、その時余裕のあるエンジニアが応援に入ればいい訳です。その設備の最大負荷を想定して固定の保全要員を抱える必要はありません。
よく言われる、「ムリ、ムダ、ムラ」の解消を図ることが出来ます。結果的に最小人員で最大効果を生むことが可能となります。
私達の工場ではこうした保全要員の多能工化を進めていました。誰がどの設備の保全が可能か、表にして工程に掲示してありました。
むろん、保全担当者の多能工化にはスキル認定制度が不可欠になります。設備の保全を任せても大丈夫だと言うお墨付きが必要です。
5.オペレーターの自主保全による保全工数削減
保全担当者の多能工化と同じ意味合いで、マシンオペレーターの自主保全を進めることも保全コスト削減につながります。
何しろ日々の生産で設備の状態を一番よく知っているのはオペレーターです。そのオペレーターが日常点検を行い、簡単なトラブルなら自分で復旧作業を行う訳です。
例えるなら、運転手が自分の運転する車を走行前点検を行うようなものです。ブレーキの利き具合、燃料の残量、タイヤの空気、ウオッシャ液の残量など、運転手が点検するのがベストです。
同様に製造設備も日常点検レベルならオペレーターが行うのがベストです。
単に保全コストの削減だけでなく、マシンの停止時間短縮、品質向上にもつながります。
当サイトの資格紹介にも掲載した自主保全士の資格を持つオペレーターを増やすのもアリですね。
➡自主保全士はオペレータのスキルアップ狙いの資格
保全コストの削減と保全品質の維持を両立させる
何度も繰り返し述べたように、手抜きの合理化は必ず失敗します。潜在リスクはいつか必ず顕在化し手抜きが失敗だったと思い知ることになります。
例えば、ひと月にたったの5日しか稼働しない設備があったとします。5日の稼働の為に半日かけて月次点検を行い、1日かけて半年点検が必要でしょうか?
それはえらくバカバカしく思え、月次点検を中止し、半年点検を1時間で終わらせる手抜きをやったとします。
しかし、例えひと月に5日しか稼働しない設備でも経年変化は起きるし、逆にめったに稼働しないことがトラブルの原因になることもあります。
私自身、こうした低稼働の設備の点検を怠ったがために、内部センサーの故障に気付かずカスタマークレームを発生させてしまった苦い経験があります。
だからと言って、ひと月に5日しか稼働しない設備のために半日かけて月次点検をやるのは余りに不合理です。
要は低稼働に合わせた点検のやり方、品質保証のやり方を考えればいいのです。
(真の解決策はそんな低稼働の生産を廃止することです)
設備保全のコストと品質は、ある意味相反しますが必ずしも常にそうだとは限りません。
保全の作業環境を整備する、保全要員のスキルアップを図る、作業手順を見直す、こうした取り組みによって保全品質が向上し、結果としてコストダウンにつながることもあります。
生産技術や設備保全が現場で目指すコストダウンとは、こうした裏付けのある、手抜きではないコストダウンです。
また生産技術と設備保全が協力できる体制を作る為、組織一本化という形もありです。