スポット溶接機

同じ図面なのに、加工先が違うと、出来栄えがかなり違ってしまう。

あなたには、こんな経験はありませんか?

どんなにいい図面を描いても、それを加工する業者によって品質が左右されてしまうとしたら。

今回はそんなケースの代表例、板金加工についてのお話です。

 

「図面には、その部品の加工に必要な条件、指示が全て入っているべきだ。」

これは、間違いない。あなたも、そう思うでしょう?

そんな図面であれば、どこの加工業者に手配されても、同じような品質で仕上がるはずですよね。

その為に、図面上、設計上のいろんなルールがあり、規格があるのです。

 

ところが、そんな規格があるにも関わらず、同じ図面で手配しても加工業者によって、かなり仕上がり品質に差の出ることがあります。

特に、板金加工では、そういったケースが多く見られます。それは何故でしょうか?

 

私は半導体の前に事務機の設計を13年間やりました。板金設計もずいぶんやりました。

何しろ事務機は板金部品の比重が大きいのです。

その板金設計の経験をお話したいと思います。

 

機械設計者が板金加工で悩むこと

まず、あなたは板金部品でこんな悩みや不満を持ったことはありませんか。

 

●寸法精度が出ていない。

●ひずんだり、変形している。

●見た目がきたない。

 

板金設計をやった経験のある人なら、きっと思い当たる事例があるでしょう。多くの場合、曲げや溶接が入った場合に、こんな悩みが発生します。

 

そして、その悩みの深刻さ、大きさは、加工業者によって変わるのです。ここが、板金加工が機械加工と違う点です。

 

プレス加工機

 

今まで全く問題なかった部品が、発注先が変わったとたんに問題を起こす。こんな事例は板金加工に多いのです。

例えば、装置のカバー。板金加工の代表選手ですよね。これは、モロにその業者のセンス、実力が出ます。

 

へたくそな板金業者が作ったカバーは、装置に取り付けたときに見栄えが悪くなります。どこかがひずんでいたり、隙間があいていたりします。

 

首をひねって、図面とにらめっこし、どこがおかしいのか原因を探します。ところが特に大きく寸法公差からはずれているわけでもない。

だけど、どうも変だ・・・・

 

これは、多くの場合、曲げ精度と溶接精度に起因しています。微妙に寸法がずれていたり、少しづつ誤差が累積していたりします。

溶接のひずみや、曲げ角度の誤差が影響しているのです。

 

溶接

 

むろん、図面上に公差を入れればいいのですが、そもそも板金です。

ブロックをフライス盤で削り出して部品を加工するのとは訳が違います。板金加工には自ずから板金加工としての限界があります。

その限界ラインが、どこまで精度を保証出来るか、実はここが問題なのです。

 

その限界を保証するもの、決めるものは図面上の寸法や公差や溶接指示だけではなく、加工業者の持っている技術レベル、センスだったりするのです。

だから同じ図面でも業者が変わると仕上がりが大きく変わることがあるのです。

 

板金加工は業者のセンスで品質が左右される

以上のように、いくら細心の注意を払って図面を作っても、その業者が持っている技術、センス以上の部品は出来上がりません。

 

あなたの悩み、不満は解消されないのです。それは、図面が悪いのではなく、設計が悪いのでもなく、単に業者の選定が悪いのです。

 

加工不良、と言う明白な不良ではなく、センスの悪い、見栄えの悪い、外観品質の不良なのです。これが板金加工の持つ特異性です。

フライス盤や旋盤で加工した部品だって加工者のセンスが出ますが、板金加工ほどではありません。

 

機械加工

 

私は関西の事務機メーカーで機械設計をやりましたが、事務機は非常に多くの板金部品を使います。

だいたい、1製品あたりの図面枚数は少ないもので200枚から300枚、多いもので500枚から600枚程度です。

 

そのうち、ざっと6割から7割は板金図面です。(これが半導体設備だと機械加工部品が7割以上を占めます。)

従って板金部品の出来栄えが商品の出来栄えに直結します。

 

そこで事務機を設計している時はいかに板金加工の精度を上げるか、加工しやすい図面を描くか、そこが設計者としての腕の見せ所でした。

その上で、技術が高くてセンスのいい板金業者に加工をお願いしていました。

 

事務機や自動車部品など、板金部品を大量生産している業者ならまず大丈夫です。板金加工のノウハウを蓄積しています。

まず初めての業者に加工を依頼する場合は、本番の前にサンプル、見本でセンスを確認することです。

 

板金工場

 

曲げと溶接の多く入った部品をセットでお願いしてみましょう。容器とそのフタ、みたいなセットです。

それでかなり技術レベルとセンスが分かります。

 

まとめ

「自分の設計の未熟さを加工業者のせいにするな。」

そんな批判を受けることがあるかも知れません。確かに設計の未熟さは加工でカバーできません。

でも、一方でいい設計も加工技術の未熟さで台無しになることがあります。

 

技術レベルの高い加工業者、センスのいい業者の協力があってこそ、あなたの設計力は更に磨かれ、付加価値の高い設計が可能になります。

特に板金加工は図面だけで品質が決まらないことも多く、業者の選定は重要です。

 

その為には設計者も加工についての知識が必要で、自分の描いた図面がどうやって作られるのか理解する必要があります。

 

私も新入社員のとき、凡そ1年近く加工、組立ての実習をやりました。プレス、溶接の板金加工はむろん、フライス盤、旋盤、研磨など機械加工もやりました。

それが機械設計をやる上でどれだけ役に立ったか知れません。

 

スポット溶接機

 

あなたも機会があればぜひ、加工現場の見学をやってください。実習は無理でも見学なら可能でしょう。

 

板金加工の工場に行って、材料の保管、取扱から加工現場を見学してみてください。完成品の検査や保管方法もぜひ見てください。

それでその工場の技術レベルやセンスがけっこう分かります。