目視検査2

品質管理を検査工程だけに頼ってもうまくいくはずがありません。

検査は品質管理の1つの工程に過ぎません。

しかし、私が台湾の電子部品工場でみた品質管理は、まさに検査工程のみに頼っていました。

その結果、不良流出が止まらず、日本の発注元から取引停止の危機に陥っていました。

 

そんな工場のオーナーから、現地の代理店経由で新しい検査機の商談が舞い込みました。

高額投資の商談でしたが、私はある危機感を感じ取っていました。

この商談、積極的に進めるべきか否か。

 

このお話は私が現役時代に実際に台湾で体験した実話です。

品質管理は検査だけで達成できない見本みたいなお話です。

 

「品質管理=検査」なのか?

転職サイトで「品質管理の仕事」を探すと、検査員募集の求人が見つかることがよくあります。ハローワークの求人検索でも沢山出てきます。

そんな求人では、「品質管理=検査」といった図式で求人をしています。

 

しかし、そもそも品質管理の定義とは、

 

『品質管理とは、買手の要求に合った品質の品物または サービスを経済的に作り出すための手段の体系』(JISによる)

 

と言うことです。

 

従って、検査とは品質管理を行う上での1つの手段に過ぎません。検査だけやっていれば品質管理が出来ていると言うことにはなりません。

そんな事例の極めつけを紹介します。

 

出荷検査をトリプルにした精密部品工場の話

私が勤務していた会社では、半導体の検査装置を開発製造、販売までやっていました。

自社工場に導入するのはむろん、外販も行っていました。

 

ユーザーは国内にとどまらず、中国、台湾、タイ、シンガポールなどアジアの国々にも販売していました。

 

海外展開

 

ある時、台湾の代理店からの引き合いで現地の電子部品工場を訪問したことがありました。

お話は電子部品の外観検査を自動で行う装置の導入検討でした。

 

その会社が作っている電子部品は日本の音響機器メーカーに納品されていたのですが、何しろ不良品の流出が止まらず、このままでは取引停止になってしまうと言う危機感を持っていました。

 

うまくいかない

 

そこで詳しく現状を聞かせてもらったのですが、驚いたことにその会社では出荷検査を三重に行っていました。トリプル検査です。

 

最初に不良品が流出したとき、暫定対策で検査を二重にしたのだそうです。

ところが、二重にしても不良品が出荷されてしまう。不良品が検査を通り抜けてしまうのです。

そこでやむを得ず、出荷検査を三重にしたのだそうです。

 

これでは検査コストがかかり過ぎて利益が薄くなってしまいます。その上、三重検査にしてもまだ不良品が流出していると言うのです。

 

確かに目視検査員が行う外観検査で100%完全に不良品をはじくことは不可能です。

よほど不良モードが容易に判別できるものならともかく、顕微鏡を使った電子部品の目視検査となると無理です。

 

目視検査2

 

人間のやることに完璧、100%はありません。どんなベテランでも、どんな目のいい検査員でも何千、何万と検査をやる中に、1個、2個の見逃しは発生します。

 

しかし、それは部品を購入する顧客側でも承知の上です。

まさか不良ゼロを前提に、1個でも不良品が見つかったらペナルティとか、取引停止なんてことはありません。

正式な文書にするかどうかは別にして、どこまで許容されるか限度について取り決めを行うのが普通です。

 

台湾のその会社は顧客と交わしたその限度範囲を超えて不良品が流出し続けている訳です。

さすがに三重検査でも対策不十分だからと言って四重検査にする訳にもいかず、自動機の導入を検討し始めたと言う訳です。

 

商談を中止した理由とは?

さて、そうした現状を見たり聞いたりした上で、私は代理店の人と相談してその商談をお断りしました。

なぜだと思いますか?

 

それは、品質管理が全く出来ていない会社に検査装置を売ると、その後にトラブルが続出する可能性が非常に高いからです。

安易に目視検査を自動化すれば品質管理ができると思っている時点で危ないです。

 

未経験者

 

そもそも三重検査が常態化している生産ラインは異常です。不良品流出の防止策として暫定的に行うなら分かります。

 

しかし、それが長期に渡って常態化していると言うことは、品質管理能力に問題アリと言うことです。

三重検査を行うことが品質管理なのではなく、不良品が発生しないように工程を見直し改善することが品質管理です。

 

仮に目視検査工程だけの問題で不良品が流出しているのなら、検査員の教育、訓練、能力チェックなどが見直しされるべきです。

QC工程図が機能していない可能性大です。

 

しかし、目視検査の限界を超えるような品質の製品が前工程から流れて来るようなら、製造ラインそのものの見直しが必要です。

 

いずれにしても出荷検査が三重検査になっている工場に品質管理が行き届いているとは思えません。

 

QC7つ道具

 

そんな品質管理の出来ていない会社に検査機を販売しても、まともに運用出来るとは思えません。

今度は不良品流出の原因が検査機にあると指摘され、へたすると返品騒ぎになりかねません。

そんなリスクを痛いほど感じたので商談を辞退したのです。

 

まとめ

どんな検査にせよ、それは品質管理の一部であり、手段に過ぎません。検査を行うと言うことと、品質管理を行うと言うことはイコールではないのです。

 

製造ラインの品質を保証するとき、真っ先に検査に目を向けるのは間違いです。理想を言えば出荷検査はやらなくて済むのが一番です。

 

それではあまりに危ないので抜き取り検査くらいは必要でしょうが、それはあくまで品質確認のための検査です。

 

検査工程は前工程の不良を見つけ、フィードバックをかけるのが目的であり、カスタマークレーム対策として検査だけに頼るのは本末転倒と言えます。

 

品質管理

 

もしもあなたが品質管理、品質保証の仕事で転職を考えていて、履歴書作成や面接試験を受けるとき、過去に検査工程に関わった経験があるならご注意下さい。

 

あなたのキャリアを語るとき、いかに検査工程を強化したと言う点に主眼を置くより、いかに検査を通じて前工程の品質改善、品質向上に貢献したかを語って下さい。

 

検査員募集の求人ならともかく、品質管理部門の求人であればあくまで品質管理における実績をアピールして下さい。

企業が求めているのは品質管理のマネジメント、実務が出来る人であって、検査員ではないはずです。